避難所の課題<空間設計の課題>
空間設計の課題
避難所の様々な問題は、避難所になる小中学校と深い関係にあります。
小中学校のほとんどが避難所に指定されていますが、学校は教育のための施設なので、当然のことですが基本的に生活には不向きです。
たとえば、体育館は住宅に比べると断熱性能に劣るので、冬は底冷えし、夏はうだるような暑さになります。また床は固く就寝には不向きであり、空間が広すぎて暖房も冷房も効きにくく、音は妙な響き方をします。それから、壁がないのでそのままではプライバシーは確保できません。言わば体育館という建物は、本当は雨風がしのげるだけの一時しのぎの場所ということになります。
体育館や校庭に設置する通路や仮設トイレ、炊き出し場などの空間配置は「構造的問題」になるということに気を付けなくてはなりません。ここでいう構造的問題というのは、場所を決定したり、物をおいてしまうと、それが避難者の安全、人や物の動線などの全体的な構造を規定し、変更が困難になるということです。
場所決めというのは非常にやっかいで、仮設トイレや炊き出し場、給水場、洗濯場など、そこに何かを置いて使ってしまうと、後で動かすことが大変になります。まずは重いものを動かすということで、力と人手が必要ということで大変です。また、移動先をすでに他のことで利用してしまっているということがあります。炊き出し場を移動したい場所には仮設トイレが置いてあり、仮設トイレを動かす先には給水タンクが置いてあり、給水タンクの移動先はゴミ出し場になっているという具合です。
次に動線の基本である通路ですが、たとえば体育館の中の通路をどう作ればよいのでしょう。もし通路を作らないと、外に出るのも、物を運ぶのも不便だし、夜トイレに行くときなど大変なことになってしまいます。幅はどれくらいが適当でしょうか、またルートはどうすれば良いのでしょうか。十の字型、田の字型、S字型、U字型などいろいろな通路が考えられると思います。壁際は寄りかかることができるのでそこに陣取りたい人は大勢いると思いますが、それによって換気口が塞がれると室内にほこりが充満してしまうし、壁伝いにトイレにいきたいお年寄りが大勢いるかもしれません。それから、地区割り、つまり同じ地域に住む人を同じ場所にするかどうかということも考える必要があります。
校庭の通路についても何かと配慮が必要です。
まずは、水や食料の搬入、支援物資の受け入れ、支援隊などの車両がスムーズに出入りできること、それから車中泊者の出入り、来客車の出入りのことも考えなくてはなりません。
教室についてはどうでしょうか。
避難所としては、要配慮者のためにできるだけ多くの教室を使わせてほしいのですが、学校側としては 早期に授業を再開するために避難者に開放する教室はできるだけ少なくしたいと考えています。
職員室や事務室、校長室には 個人情報がたくさん詰まっているし、金庫などもあるかもしれません。また、理科室には薬品もあるかもしれません。
それから、足が不自由だったりして、階段の昇り降りが大変な方もいます。そういう方を2階、3階の教室に案内するのは難しいかもしれません。
仮設トイレはどこに設置すれば良いのでしょう。
まず、搬入やくみ取りがしやすい場所で、居住スペースからあまり近すぎず遠すぎず、地面はコンクリートで、雨に濡れにくいか仮設のブルーシートが張りやすく、仮設の電線も張りやすく、電気が復旧したら明かりがつき、特に女性用トイレについては人通りが多すぎず少なすぎず、防犯上の管理がしやすく、男性用トイレとは一定の距離の確保ができる場所というところでしょうか。
さらに、炊き出し場が近すぎれば食中毒が発生しやすくなるかもしれないなど、いろいろなことに配慮しなければなりません。
炊き出し場はどうでしょうか
水場に近く、一定の広さが確保でき、テントやブルーシートが張れて、居住スペースからは近すぎず遠すぎず、トイレの近くではなく、できれば地面はコンクリートで、仮設の電線が張りやすく、しかも排水ができる場所というところでしょうか。
同様にして、給水場所、ごみ出し場、洗濯場、物干し場、着替え、仮設風呂・シャワー、談話室、子供コーナーなど生活に必要な様々な場所を、その相互関係も考えながら決める必要があります。
避難所では、開設直後に避難者を受け入れながらこれらの空間配置を、できれば後で移動する必要がないように迅速に決めていかなければなりません。このことが、さらに問題を難しくしているのではないでしょうか。