« 声による情報共有 | トップページ | 道具としてのHUG »

2016年8月19日 (金)

行政機関の防災情報システムは災害直後から役立つか

 国や都道府県、市町村などの行政機関では、大地震が起こった際に被害状況を集計したり、災害対応を円滑に進めたりするために多くの場合災害情報システムが整備されています。
 災害情報システムに情報を入力すると、道路や川、港湾、崖崩れなどの被害状況、避難所の開設状況や避難者数、不足する物資の情報など災害に関係する様々な情報を一目で見ることができます。
 行政機関では年に何回か災害対応訓練を実施していますが、その時はこの災害情報システムも使って情報集計訓練などが実施されています。
 それでは、これまでの大地震でこの災害情報システムが役に立ったかどうかということですが少し微妙なところがあります。
 例えば東日本大震災では非常に多くの県や市町村が被害を被りましたが、どこかの市町村の災害情報システムが非常に役に立って大評判になったとか、その災害情報システムが東日本大震災の後で多くの市町村で導入されたという話はあまり聞くません。それにはいくつかの理由があるからだと思います。

停電と電源の問題
 大地震が発生するとほとんどの場合停電します。停電すると庁舎に設置されている非常用発電装置が作動し、建物の中に電気が供給されます。しかし、非常用発電装置で供給できる電気の量には限界があるため、すべての電灯が点灯し全てのコンセントが使えるわけではありません 。
 また、この非常用発電装置ですが多くの場合ディーゼルエンジンで発電しているので、当然のこととして燃料が必要になります。しかし、備蓄してある燃料は長くて72時間分程度の場合が多く、燃料が尽きるまでに商用電力が復旧しない場合は発電も停止してしまうという弱点があります。


入力台数の問題
 また、この災害情報システムは行政機関の全職員が使えるかというとそういうわけでもなく、接続できる端末数には限りがある場合があります。それに加えて、非常用発電装置で発電された電気を使うことができるコンセントの数も限定され、さらに地震発生後に参集できる職員の数にも限りがあります。このように接続できる端末の台数、コンセントの数、人数に限りがある状況の中で、災害時の大量の情報を入力しなければならず、ここに大きな問題があります。
 もし、停電しておらず職員の人数が足りていたとしても、システムに接続できる端末の数に限りがある中では、全ての災害情報を的確に入力していくことは難しいのではないでしょうか 。

災害時専用ソフトという問題
 ある意味で最大の問題は、この災害情報システムが災害時専用ソフトであるということだと思われます。つまり、メールや表計算ソフト、ワープロソフトのように毎日のように使って、使いこなせるレベルに達しているわけではないということです。
 この問題に対応するため、行政機関では職員を対象に定期的に研修を実施していますが、通常業務で忙しい中この研修だけで完全にシステムを使いこなせるようになるのはほとんど無理なのではないかと思います。


その他の問題
 普段から使っているソフトではないということとも関連しますが、あの情報を見よう、この情報を見ようと思った時に、即座にその情報がある場所を見つけられるかと言うと、そういうわけでもありません。メールソフトや表計算ソフトなどでもそうですが、 何かをしたいと思った時に、それをするためのアイコンや表示を探すこと自体が大変なのではないかと思います。ソフトがバージョンアップしてアイコンの表示が変わっただけで大苦労した経験は誰にでもあるのではないでしょうか。この問題は毎日のように使っていれば自然に解決されていきますが、大災害が発生した時だけに使うソフトの使い方をそう簡単に覚えておくことはできません。
 そうなると、どの人もあの情報はどこだっけ、この情報はどこだっけとカチカチとクリックして情報を捜すことばかりに忙しく、肝心の情報を共有して対応を検討するというようなことはなかなか出来なくなってしまいます。
 もちろん災害情報システムの冒頭のページには、各種情報へアクセスできるような表示はされていますが、災害時の情報は多岐にわたるため案内表示も多くなり、また階層構造も2段階3段階と進んでいかないと目的の情報に到達できないようなこともあります。
 もしも壁一面の大きな画面がありそれを全員で見ながら共有できれば良いのですがそう簡単にはいかないのが現状です。


  以上のように、災害情報システムには発災直後からフル稼働をするのは難しいという問題があるため、私は個人的には災害発生直後は、紙と筆記用具を使ったアナログでの掲示板システムによる人海戦術を中心に災害情報システムを併用し、しだいに災害情報システムに移行していくのが良いのではないかと考えています。HUGで掲示板を使っているのもこの理由があるからです。
 私たちは普段から、より合理的な方法を採用するという考え方をしています。したがって、いくつかの方法があった場合、それらを比較して最も合理的な方法を採用します。
 また、どうしても白か黒かはっきり決着させたくなります。白でも黒でもない、右でも左でもないという中途半端な考えはあまり評価されない傾向にあります。
 あれもできるこれもできるという多才な人は器用貧乏と言われ、あの人ともこの人とも仲良くする人は八方美人と言われたりします。
 災害情報の収集・集計についても、災害情報システムという合理的な方法があるのであればそのひとつの方法を使うべきだという考えになりがちです。訓練を企画するにあたっても、災害情報システムがあるのだから、時代遅れの手動によるアナログ的な訓練などやらなくても良いのではないかという議論がしばしば行われます。
 確かにコンピューターを使った情報の集計は上手くいけば素晴らしいのですが、合理的な方法だけを採用するというのは平常時の考え方であり、災害時はどんな状況にあってもほぼ確実に実施できる手動のアナログの方法を確保しておかなければならないと思います。
 その方法は、紙と筆記用具を使った掲示板システムだと思うのですが、それについてはまた別に書きたいと思います。

« 声による情報共有 | トップページ | 道具としてのHUG »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 行政機関の防災情報システムは災害直後から役立つか:

« 声による情報共有 | トップページ | 道具としてのHUG »